発達障害×行動経済学×お金

お金の意思決定と発達障害と行動経済学入門

以前このポストがXでバズりました。

https://x.com/hokennobro/status/1907770937422094367

発達障害こそ、行動経済学を学ぶのをおススメしたい! 衝動、先延ばし、選択ミスなどが人間の脳の仕組みとして説明しやすくなるから。 「なぜそうなるのか」を知っておくだけでもバイアスに気付きやすくなる。脳のクセを知る。 その視点があるだけで、生き方はだいぶ楽になるはず

今回は、発達特性による脳のバイアスとお金についてまとめました。

ADHDやASDなど発達障害の特性があると、バイアスに左右されやすい、と当事者として感じます。

後から振り返って「あれって合理的な判断じゃなかったかも」と思うことも少なくありません。
衝動性、ワーキングメモリの弱さ、感覚過敏によるストレス……。
それらは行動経済学で語られる非合理バイアスをさらに強め、お財布を翻弄します。


1. 「行動経済学を学ぶこと × 発達障害」

  • 伝統的経済学は「人は合理的に損得を計算する」と考えられていました。
  • しかし行動経済学では、「感情やバイアスに振り回されるのが人間」ということを明らかにしました。
  • 発達障害の視点としては、「衝動性・過集中・感覚過負荷などで振り回され方が倍増する」と感じます。

例えば ADHD 当事者は 即時報酬 に強く反応しやすいと言われます。
例えば「期間限定セール」は脳内のドーパミンを刺激し、理性が追いつく前にネットでポチり隊!
これは行動経済学でいう現在バイアスの強化版です。

現在バイアスとは、「人は将来の利益よりも目の前の少しの快楽を優先しやすい」という現象のことです。このようにADHDの衝動性と現在バイアスはかなり相性が悪いのです。

2. 発達特性と共鳴しやすいバイアス

①アンカリング × 思い込み、勘違い
アンカリングとは最初に接した価格や情報が基準点として脳に固定される現象です。
ADHD の思い込みの激しさや勘違いが入ると「最初に見た数字」にロックオンされやすい傾向はあります。

例えば、最初に車を見に行ったときに300万円だったとします。
すると、どの車を見ても300万円を基準で考えてしまいます。機能も車のサイズが異なったとしても300万円を基準に考えてしまい、もっと安い車があっても「買えない」と思い込んだり、300万円出すなら別で10万円使っても300万円使うから変わらないだろう、と財布が緩くなったりします。

発達特性とアンカリングはお金の管理とかなり相性が悪いです。

② 損失回避 × 恐怖心
損失回避とは「失う痛み」は「得る喜び」よりもはるかに大きいという心理のことです。
特性ではないのですが、発達障害の人は上手に生きられなかったり、家庭環境から自信がなかったりする人も多くいます。

ただでさえ人は損失を回避する傾向があるのに、それよりも過度に損失を回避する傾向にあります。

また自己肯定感が低いと「損=自分の失敗」と自分を責めてしまいがちなので、余計に損失を嫌い合理的な判断から遠ざかってしまうことがあります。

明らかに不要なサブスクも「いつか使うかも」「使えなかった時の損失が嫌」と考えすぎるあまり、解約を先延ばしにすることがあります。
お金は垂れ流し状態です。

③ 現在バイアス × 即時報酬欲求
未来より「今すぐ」に価値を置く脳のクセ。
ADHD のドーパミン不足はこれをブーストします。後先のことよりも「今」楽しいことが第一。

「今月欲しい物」「今週行きたい場所」「今日食べたもの」。
これらが将来よりも優先度が高くなりがち。

現在バイアスだけでも手ごわいのに、特性が加わると、いつまで経ってもお金が貯まりません。

④ サンクコスト × こだわりの強さ
サンクコストとは、投下した時間・お金・労力を理由に損切りできない心理。
ASDの特性で表に出やすい完璧主義、こだわりが加わると、例えばうまく行かないビジネスに執着したりします。

客観的に見ると損するのがわかりきっているのに、過去に投下した資産とこだわりから、負のスパイラルから抜けられなくなります。

発達特性は行動経済学のバイアスにバフをかけます。
当事者にとっては、特性とバイアスの両方から殴られるので非常に厄介な組み合わせです。


おわりに―非合理にどう立ち向かうか

発達障害のある脳は一般よりバイアスを色濃く反映しがちです。
ただ、それは欠陥ではなくそういう特性です。

すぐには意思でどうこうできるものではありません。

しかし、行動経済学を学び、自分の特性とバイアスを知ることで、大きな違いが生まれます。

知っていれば、自分の脳の非合理な選択に気付きやすくなります。
経済学を学んだからと言ってもすぐに気づいて修正できることばかりではありません。

学びと振り返りを繰り返すことで、自分がどんな時にバイアスに流されやすいかは知ることができます。
様々なシチュエーションから「これはもしかして」と気付く場面を増やしていきます。

事前に対策が取れそうなことであれば、行動経済学の知見を活用して衝動性や先送り癖を「仕組み」でカバーもできます。
余計なことにリソースを割かれないので、疲れるスピードを遅らせることができます。

行動経済学の学びと、特性カバーの工夫が私たちにできることだと思います。

発達特性がバフをかけるバイアスたちに、学ぶことで立ち向かっていきましょう!!